公衆伝達の概念に関する欧州司法裁判所判決Ziggo BV事件-判決理由付けの要約
判決理由は、従来のGS Media事件やFilmspeler事件の判決を踏襲しているといってよいと考えられます。
まず、判決は、情報社会指令が、公衆伝達の概念を明確に定めていないことから、指令の目的を考慮し、公衆伝達の概念の意味と射程を定めなければならないとします(判決21項)。その上で、著作者に対し高いレベルの保護を与えるという目的に従って、その概念は広く解釈されなければならないと判断します(22項)。また、同条項は、個別的評価を前提としているとも判断しています(23項)。
公衆伝達は、「伝達行為」と「公衆」の二つの重畳的要素からなり(24項)、公衆伝達に該当するかを評価するには、補充的ないくつかの基準を考慮することが重要である(25項)と判断している点は、従前の判決どおりです。
これらの基準の中で、裁判所が強調するのは、ユーザによる不可避的役割と、その介入の意図性です。
ユーザは、その行為の結果を熟知して、その顧客に対し、保護される著作物へのアクセスを提供するために介入するとき、従って、特に、この介入がなければクライアントが配信された著作物を享受できないか、享受するのが難しいときに伝達行為を行ったといえることになります(26項)。
次に、公衆は、不特定数の潜在的名宛人で、多数人を目的とし(27項)、さらに、公衆送信に位置づけられるためには、保護される著作物が、技術的に特別な方法で伝達されるか、「新たな公衆」に伝達されること、つまり、権利者が、当初、公衆に著作物の伝達を許諾する時に想定されていなかった公衆である必要がある、と裁判所は判断しています(28項)。最後に、裁判所が強調することは、伝達の営利性も考慮されるという点です(29項)。
第一に、裁判所は、本件のようなオンライン・シェアリング・プラットフォームの提供および管理が、公衆伝達を構成するかについて、情報社会指令前文23は、ラジオ放送を含む有線または無線による、伝達の場所において行われるものを除く、全ての伝達または再伝達をカバーするという前提を確認したうえで(30項)、公衆伝達といえるためには、特に、著作物が公衆に利用可能とされれば十分で、その結果、一般人が、その選択する時と場所にそれにアクセスできればよいと判断しています(31項)。
裁判所は、過去の裁判例(Svensson事件、BestWater International事件、GS Media事件、Stichting Brein事件)から、原則として、ユーザが、十分、事情を知って、その顧客に対し、保護される著作物に対するアクセスを与える行為は、公衆伝達を構成すると判断しています(34項)。
本件では、著作権で保護された著作物が、プラットフォームの仲介者によって、ユーザの選択する場所および時間にそれにアクセスできる状態で、このプラットフォームのユーザに利用可能となっています(35項)。
その管理者は、提供と管理によって、その行為の結果を十分知って、タグ付けを行いかつプラットフォーム上にトレントファイルをインデックス化し、著作物に対するアクセスを提供するために、介入しています。
当該管理者による提供および管理がなければ、上記の著作物は、ユーザによってシェアされえないものです(36項)。
そのプラットフォームの管理者は、ユーザに対して、著作物へのアクセスを提供し、著作物の提供において無視できない役割を演じている(37項)ことになり、そこで、このプラットフォームの提供者は、単なるプロバイダとみなすことはできません。実際、当該プラットフォームではトレントファイルをタグ付けし、ファイル化した著作物の場所を示し、そのユーザにダウロードさせることを容易にしています(38項)。
以上より、裁判所は、オンラインのシェアのプラットフォームの提供および管理は、情報社会指令の伝達行為と考えられると判断しました(39項)。
第二に、同指令の公衆伝達の概念に該当するには、保護される著作物が公衆に対して伝達されなければなりません(40項)。これらプラットフォームの登録者の大部分は、プラットフォームによりファイルをダウンロードしています。 また、このプラットフォームは、多数のユーザに使用され、何千万ものpeerが存在します。
本件の伝達は、プラットフォームのユーザ全体を目的としているのですが、これらユーザは、いつでも、同時に、著作物にアクセスできます。したがって、この伝達は、不特定数の潜在的名宛人を目的とし、多数人を想定しています(42項)。
そこで、裁判所は、本件の伝達で、著作物は、情報社会指令3条1項にいう公衆に伝達されていると判断しました(44項)。
また、著作権者が当初の伝達の許諾の際に考慮していなかった公衆が、新たな公衆になる(44項)のですが、本件では、一方で、プラットフォーム管理者は、当該プラットフォームが、権利者の許諾なく公開された著作物に対するアクセスを与えるものであると知らされていますし、他方で、同じ管理者は、ブログやプラットフォーム上のフォーラムでユーザに対して保護される著作物を利用可能にする目的であることを明確に表明し、ユーザにコピーをするよう仕向けています。
このプラットフォームは、権利者の許諾なく保護された著作物へのアクセスを与えるもので、プラットフォームにある多くのトレントファイルが許諾なく送られています。したがって、裁判所は、新たな公衆への伝達も認めました(45項)。