出願した商標が似ているかどうかの判断基準

商標を出願しても、それがすんなり商標登録されない場合があります。
その場合、特許庁から、「拒絶理由通知」という書面が届きます。それでも商標登録を希望する場合には、この拒絶理由通知に応答しなければなりません。
拒絶される理由として、最も一般的なものは、商標出願のときにその商標を用いる商品やサービスとして指定した商品またはサービスについて、既に同じような商標が登録されている、というものです(商標法4条1項11号)。

審査基準

では、類似かどうかはどのように判断するのでしょうか。特許庁が公表する商標審査基準は、次のように説明します。
「商標の類否は、出願商標及び引用商標がその外観、称呼又は観念等によって需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に観察し、出願商標を指定商品又は指定役務に使用した場合に引用商標と出所混同のおそれがあるか否かにより判断する」。
これは、最判昭和43年2月27日氷山(しょうざん)印事件で示された判断基準を、審査基準として採用したものです。

ここで、外観類似は、商標が視覚的に似ているかどうかという問題です。
称呼類似は、商標が音として似ているかどうかという問題です。
観念は、商標から生じる意味内容が似ているかどうかです。
「または」なので、これらの一つでも紛らわしいと判断される場合、商標法4条1項11号によって、商標の登録が拒絶される可能性があります。

類似が問題になったケース(大森林事件)

では、外観、称呼または観念がどれも似ていないような場合であっても、商標の抵触が問題となる場合があるのでしょうか。問題になった判例として大森林事件があります(最判平成4年9月22日大森林事件)。
大森林事件は、「木林森」を頭皮用育毛剤等に使用していた者に対して、「大森林(4類せっけん類等)の商標権者が商標権侵害を理由に訴えた事件です。

最高裁は、次のように判断し、製造販売差し止めを認める上告人の控訴を棄却した原審を破棄差し戻ししました。
「商標の類否は、同一又は類似の商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきであり、しかもその商品の取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものであって(最高裁昭和三九年(行ツ)第一一〇号同四三年二月二七日第三小法廷判決民集二二巻二号三九九頁参照)、綿密に観察する限りでは外観、観念、称呼において個別的には類似しない商標であっても、具体的な取引状況いかんによっては類似する場合があり、したがって、外観、観念、称呼についての総合的な類似性の有無も、具体的な取引状況によって異なってくる場合もあることに思いを致すべきである。」
もっとも、最高裁は、両者は少なくとも外観、観念において紛らわしいとも判断しているので、外観、観念、称呼の類似性の判断手法を、取引状況によってやや広く捉えたとも解釈できます。