美術の著作物の追及権(ついきゅうけん)とは

追及権とは?

追及権とは、図形および造形の著作物の原著作物の著作者またはその相続人が、著作者による譲渡後、著作物の物理的媒体が転売された場合に、その転売価格から一定割合を受け取ることができる権利をいいます。つまり、著作者が美術品を一度手放してしまっても、その後美術品が転売されたときに、転売のおこぼれにあやかれるというわけです。

この追及権は、我が国の著作権法には、存在しない権利です。
つまり、我が国では、美術などの著作物の著作者は、その作品の媒体を売ってしまえばそれっきりで、それ以降、その美術品が高く転売されても、その恩恵にあずかることはできません。

欧州での追及権導入

追及権が導入されているのは、欧州の著作権法です。欧州といっても、フランスでは、1920年から追及権が導入されていた一方、かつてのイギリスでは導入されていませんでした。
そこで、欧州は、追及権指令(2001年9月27年EC指令2001/84/CE)により、EU加盟国全域において追及権を国内法化するよう、著作権法のハーモナイゼーションを行うことになりました。

追及権を設ける理由

では、どうして追及権が導入されたのでしょうか。
美術の著作物の著作者は、主に、著作物の譲渡でしか利益を得ることができません。しかし、まだ成功していない著作者は、タダ同然で著作物を譲渡しなければならないときがあります。 その後、仮に、その著作者が著名になり、その著作物の価格が高値で取引されるようなことがあっても、著作者は、既にそれを譲渡してしまっているので、その恩恵を受けることはできません。
また、美術の著作物の著作者にも、複製権などがあるとはいえ、そこから十分な利益を得ているとはいえません。
そのため、複製などによって利益を受ける機会のある他の著作物の著作者との均衡を失することのないよう、追及権を与えて、美術の著作者が転売の収益にあずかることができるようにしたと説明されています。

今後の動向

我が国でも、少しずつ、追及権を導入しようという議論がされるようになってきてはいるのですが、本格的に議論されているわけではありません。
追及権を導入した場合、美術の著作者やその相続人は、これまで得られなかった経済的利益が得られ、それを管理する集中管理団体も経済的利益を得られることになると思います。
他方、美術の取引市場が、追及権を導入していない国に流れてしまう、とか、まだ著作権の存続期間内にある作家の作品の取引を抑制してしまうともいわれています。

個人的には、Brexitによって、イギリスの法制度が変化するかどうかに興味があります。
イギリスは、欧州指令により追及権を国内法化しました。しかし、国内法化した際も、あまり乗り気ではなかったせいか、じゃっかんの特別扱いがされています。ただし、イギリスは、国内法化した制度については、欧州離脱後も変更しない方針のようです。したがって、イギリスが欧州を離脱しても、著作権法には、変更がないようにも思えます。
イギリスは、クリスティーズやサザビーズの本拠地であり、オークション会社の本音が気になるところです。追及権が廃止されることになれば、世界における追及権の勢力図は、大きく変化することになります。