愛知・岐阜あたりでは、朝に喫茶店でコーヒーを注文すると、頼んでもいないのに「モーニング」がどーんと運ばれることがあり、幸せな気分を味わえます。東海地方にはこのような独特の喫茶店カルチャーがあります。
東海地方の喫茶店を代表するともいえるのが、コメダ珈琲店です。コメダ珈琲店は、郊外に店舗を構えていることが多いのですが、これらの店舗は、共通の特徴を備えた店舗の外観を有し、統一感を感じさせるものとなっています。
このコメダ珈琲店の店舗の外観と似た外観の店舗で営業する喫茶店が出現した、というのが事件の発端です。
コメダ珈琲店を営む(株)コメダ(債権者)は、「マサキ珈琲」という名称で珈琲店を営む業者(債務者)を、店舗の外観の特徴が共通するとして、同じような外観を持つ建物などの使用禁止を求める仮処分を求めて提訴しました。
コメダ珈琲店は、どのような法的根拠で、使用禁止を求めたのでしょうか。
不正競争防止法2条1項1号(周知表示誤認混同行為の禁止)
債権者は、不正競争防止法2条1項1号に基づいて、使用禁止の仮処分を求めました。なお、債権者は、2号(著名表示使用行為)の主張も行っています。
不正競争防止法2条1項1号は、他人の商品等表示として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用するなどの行為を行い、他人の商品や営業と混同を生じさせる行為(周知表示誤認混同行為)を禁止しています。
債権者は、コメダ珈琲店の標準的な郊外型店舗に共通してあるいは典型的に用いられている店舗外観(店舗の外装,店内構造及び内装)(以下「債権者表示1」)が、不正競争防止法の商品等表示に該当すると主張し、債権者表示1には、周知性があり、債務者の店舗外観(店舗の外装,店内構造及び内装)は、債権者表示1に類似する営業表示を用いるものなので、不正競争防止法2条1項1号(周知表示誤認混同行為)に該当すると主張し、類似の外観を持つ建物の使用禁止を求めたのです。
最大の論点は、店舗外観は、不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当するかどうかです。同号は、商品等表示について、「人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう」と定義していますが、商品等表示の例示のなかに、店舗外観は入っていません。このようなコメダ珈琲店の主張は、成り立つのでしょうか。
裁判所の判断
東京地方裁判所は、次のように判断して、店舗外観が、一般論として商品等表示(ここでは営業表示)になり得ることを認めています。この判断は、過去の裁判例「めしや食堂事件」(大阪地裁平成19年7月3日判決)で示された判断の流れをくむものです。
「店舗の外観(店舗の外装,店内構造及び内装)は、通常それ自体は営業主体を識別させること(営業の出所の表示)を目的として選択されるものではないが、場合によっては営業主体の店舗イメージを具現することを一つの目的として選択されることがある上、➀店舗の外観が客観的に他の同種店舗の外観とは異なる顕著な特徴を有しており➁当該外観が特定の事業者(その包括承継人を含む。)によって継続的・独占的に使用された期間の長さや、当該外観を含む営業の態様等に関する宣伝の状況などに照らし、需要者において当該外観を有する店舗における営業が特定の事業者の出所を表示するものとして広く認識されるに至ったと認められる場合には、店舗の外観全体が特定の営業主体を識別する(出所を表示する)営業表示性を獲得し、不競法2条1項1号及び2号にいう「商品等表示」に該当するというべきである。」
その上で、裁判所は、コメダ珈琲店の店舗外観の周知性を認めた上で、債務者の店舗外観の類似性および混同のおそれがあることも認め、債務者がコメダ珈琲店の店舗外観に似た店舗用建物を使用することを禁止しました。
コメント
裁判所の判断で注意すべき点は、「店舗の外観(店舗の外装,店内構造及び内装)は、通常それ自体は営業主体を識別させること(営業の出所の表示)を目的として選択されるものではない」との前置きがある点です。
つまり、店舗外観が必ずしも営業表示に該当するのではなく、反対に、営業主体の識別を目的とするものではないとし、原則として営業表示に該当しないことを示唆しています。
しかし、条件が重なって、たとえばコメダ珈琲店という看板がないような状態であっても、店舗の外観を見ただけで「コメダ珈琲店」と分かるような場合には、店舗外観だけで営業主体を識別することができると考えられます。ただし、本件は、仮処分であり、営業表示に該当するかどうかの争いは、訴訟において続いていくと思われます。
なお、裁判所の決定によれば、本件仮処分の相手方は、コメダ珈琲店に対して、フランチャイジーになることの希望を出していたのですが、コメダ珈琲店側は、希望の地域にすでにフランチャイジーがいたので、その関係上、他の地域ならば検討可能と回答するなどの交渉があったようです。そのようなやりとりの後に、似た店舗で営業を開始し、さらに、仮処分申立ての後も同じような外観の2号店を設けた経緯があったので、裁判所の印象も悪かったのかもしれません。経験上、裁判(特に第一審や仮処分)では、こういう対応が判断に影響を与えることがあると感じています。
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