比較広告とは、「比較広告に関する景品表示上の考え方」(昭和62年4月21日公正取引委員会事務局、 平成28年4月 1日消費者庁改正)によれば、自己の供給する商品または役務(以下「商品等」)について、これと競争関係にある特定の商品等を比較対象商品等として示し(暗示的に示す場合を含む)、商品等の内容または取引条件に関して、客観的に測定または評価することによって比較する広告をいいます。
比較広告を行う場合、比較対象となる競争相手の商標を用いることになる場合があります。
このような場合も、一見、商標権侵害になりそうですが、裁判例は、商標権侵害にならないと判断しています。
そのような事件の例として、黒烏龍茶類似品事件(東京地裁平成20年12月26日判決)があります。
事案の概要
被告は、サイト上で、原告商品の画像5本半分(2リットル相当)と被告ら商品Bの1包の画像との間に「>」の記号を付し、その下に「1包のティーバッグで2リットルのペットボトル1本を作る事ができます!」と表示し(「本件比較広告1」)、さらに「烏龍茶ポリフェノール含有量2070mg 約70倍 サントリーなんかまだうすい!」と表示していました(「本件比較広告2」)。
原告のサントリーは、被告がサイト上で、被告の商品の品質等を誤認させ、虚偽の事実によって原告の商品を中傷する広告を掲載したとして不正競争防止法2条1項13号または14号(現行法14号・15号)違反を主張し、さらに、同広告により原告の商標権および著作権を侵害したと主張しました。
判旨
裁判所は、商標権侵害の点について、被告は、「本件各比較広告において、被告ら商品Bの含有成分の量と原告商品のそれとを比較し、前者の方が優れていることを示すことで、被告ら商品Bの宣伝を行うために、原告商品に付された本件各登録商標を使用したものと認められ、これに接した一般需要者も、そのように認識するのが通常であるといえる」と判断した上で、被告による本件各登録商標の使用は、「比較の対象である原告商品を示し、その宣伝内容を説明するための記述的表示であって、自他商品の識別機能を果たす態様で使用されたものではないというべきであり、商標として使用されたものとは認められない」と判断しました。
解説
被告は、比較広告を行うにあたって、比較の対象を示すために原告の登録商標を用いたのであり、自他商品の識別機能を果たす態様で使用したわけではありません。そのため、商標権の自他商品識別機能を害する態様で、原告の商標が使用されたわけではありません。このような場合、原告の商標を使用したとしても、商標として使用したことにあたらないので、商標権侵害にはならないのです。
実務上の注意
比較広告のために商標を使用したときに商標権侵害にならないにしても、比較広告のやり方によっては、他の法律に抵触する場合があるので、注意が必要となります。上記の事件でも、原告の烏龍茶と被告の烏龍茶とのポリフェノール含有量が問題となり、被告の広告には、ポリフェノールの含有量の表記に問題がありました。そのため、裁判所は、「本件比較広告1および本件比較広告2は、いずれも、客観的真実に反する虚偽の事実であり、かつ、一般需要者に対して原告商品の品質が被告ら商品Bに劣るとの印象を与え、原告の社会的評価を低下させるおそれのある事実であると認められる」と認定し、不正競争防止法2条1項15号違反(虚偽事実の告知流布行為)に該当すると判断しています。さらに、このような比較広告については、景表法違反も問題になります。
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