特許・商標・著作権など知的財産をライセンスする契約では、通常、保証条項が記載されます。
保証条項は、一般的に、➀ライセンスの対象となっている知的財産が、他人の知的財産権を侵害しないことの保証、➁万が一、侵害をしていた場合の損害賠償責任を定めています。
弁護士が作成する契約であれば、ライセンスを受ける側はなるべく厳しく、ライセンスをする側はなるべく緩く、というように立場によって使い分けをします。一般の方が作成する契約書では、そういう立場を考慮しないで定型文を使ってしまい、自分に不利な条項になっていることがあるので、注意が必要です。
契約書を作成した後でもめたことはないので、このような保証条項がある場合に、実際、ちゃんと責任を追及できるのかなぁと疑問に思いつつ、いつも契約書を起案していました。
知財高裁平成27年12月24日判決判タ1425号146頁(原審は東京地裁平成27年3月27日判決)は、保証条項がどのように解釈されるかについて判断した裁判例です。
上記裁判例で問題となった契約書には、次のような条項が定められていました。
<原告は、被告に納入する物品並びにその製造方法及び使用方法が、第三者の工業所有権、著作権、その他の権利を侵害しないことを保証する。〔18条1項〕>
<原告は、物品に関し、第三者との間で知的財産権侵害を理由とする紛争が生じた場合、自己の費用と責任でこれを解決し、又は被告に協力し、被告に一切の迷惑をかけないものとする。
被告に損害が生じた場合には、原告は、被告に対し、その損害を賠償する。〔18条2項〕>
18条2項について、知財高裁は、「同条2項は、同条1項により、被控訴人は、控訴人に対し、知的財産権を侵害しないことを保証することを前提としつつ、第三者が有する知的財産権の侵害が問題となった場合の、被控訴人がとるべき包括的な義務を規定したもの」と判断しつつ、「同項の文言のみから、直ちに被控訴人の負うべき具体的な義務が発生するものと認めることはできず、上記のとおり、同項は、被控訴人がとるべき包括的な義務を定めたものであって、被控訴人が負う具体的な義務の内容は、当該第三者による侵害の主張の態様やその内容、控訴人との協議等の具体的事情により定まるものと解するのが相当である」と判断しました。
本件では、契約当事者(控訴人・被控訴人)間において、チップセットの売買契約が締結されていました。買主(控訴人)は、特許権者からそのチップセットが特許権侵害であると警告され、差止請求をうける理数を回避するために、ライセンス契約を締結せざるを得なかったという経緯がありました。
ただし、チップセットの特許権侵害については、否定されています。
裁判所は、そのようななかで、具体的な義務として、売主(被控訴人)は、「①控訴人においてWi-LAN社との間でライセンス契約を締結することが必要か否かを判断するため、本件各特許の技術分析を行い、本件各特許の有効性、本件チップセットが本件各特許権を侵害するか否か等についての見解を、裏付けとなる資料と共に提示し、また、②控訴人においてWi-LAN社とライセンス契約を締結する場合に備えて、合理的なライセンス料を算定するために必要な資料等を収集、提供しなければならない義務を負っていたものと認めるのが相当である」と判断しました。
ライセンス契約書には、一般に、本件と同様の保証条項を記載しています。このような条項がある場合、知的財産権侵害が問題にならなかったとしても、第三者からクレームをつけられたときには、誠実に対応する必要があります。