私的録音録画補償金(してきろくおんろくがほしょうきんせいど)②-私的録画を巡る裁判

私的録画補償金については、東京地裁平成22年12月27日判決と、その控訴審である知財高裁平成23年12月22日判決(判時2145号75頁)の判断があります。

事案の概要

東芝は、DVD録画機器を製造・販売していましたが、社団法人私的録画補償金協会(SARVH)に対し、補償金相当額の支払いを行いませんでした。
特定の私的録画機器の製造業者には、著作権法104条の5に基づき補償金支払いの請求および受領に関する協力義務が定められています。
そのため、SARVHは、協力義務の履行または協力義務違反の不法行為による損害賠償として、東芝に対し、私的録画補償金相当額の支払いを求めて提訴しました。

主な争点

主な争点は、➀アナログチューナー非搭載DVD録画機器である被告各製品が、施行令1条2項3号に規定する特定機器に該当するか、➁被告が、原告に対し、法104条の5の協力義務として、被告が販売した被告各製品に係る私的録画補償金相当額を支払うべき法律上の義務を負うか、③被告に協力義務違反の不法行為が認められるか、です。

原判決の概要

原判決は、争点①について、被告各製品が補償金支払いの対象となる特定機器に該当すると判断しました。しかし、争点②について、著作権法104条の5に定める協力義務は、法律上の義務を課したものと解することは困難であると判断し、かつ、争点③についても、不法行為の成立は認められないと判断しました。原審は、原告であるSARVHの請求を棄却したため、SARVHは、この判断を不服として、知財高裁に対して控訴しました。

知財高裁判決の概要

知財高裁は、争点②に関して、原判決と同様の考え方を採用しましたが、争点①については、被告各製品は特定機器に該当しないと判断しました。
その上で、知財高裁は、「法104条の5が製造業者等の協力義務を法定し、また、指定管理団体が認可を受ける際には製造業者等の意見を聞かなければならないと法104条の6第3項で規定されている以上、上記のような実態の下で「上乗せ・納付方式」に協力しない事実関係があれば、その違反について損害賠償義務を負担すべき場合のあることは否定することができない」として、協力義務違反に対し、不法行為が成立する場合がありうることを認めたのですが、本件では、争点①の問題で、特定機器に該当しないことから、不法行為に基づく損害賠償を否定しています。

協力義務の法的性質について

地裁判決は、協力義務を定めた「法104条の5においては、特定機器の製造業者等において『しなければならない』ものとされる行為が、具体的に特定して規定されていないのであるから、同条の規定をもって、特定機器の製造業者等に対し、原告が主張するような具体的な行為(すなわち、特定機器の販売価格にして記録が補償金相当額を上乗せして出荷し、利用者から当該補償金を徴収して、原告に対し当該補償金相当額の金銭を納付すること(以下「上乗せ徴収・納付」という。))を行うべき法律上の義務を課したものと解することは困難というほかなく、法的強制力を伴わない抽象的な義務としての協力義務を課したものにすぎないと解するのが相当である」と判断しています。

知財高裁判決は、原審の上記理由をより詳しく述べているといえます。つまり、知財高裁では、審議の過程において、上乗せ徴収・納付方式しか検討されていないとしながらも、上乗せ・納付方式をとることは一義的に明確でなく、他の方法も想定されうるので、このような方式によって請求できる根拠は一義的に決まるものではないと判断しています。

判決の影響

本判決により、私的録画補償金制度は機能しなくなり、指定管理団体であった私的録画補償金管理協会(SARVH)は解散に至ってしまいました。

 

アーカイブ

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