この問題の背景には、テレビCMを劇場用映画と同じように映画の著作物として捉え、映画の著作権の帰属に関する著作権法の規定を、テレビCMにも当てはめてよいのか、という疑問があります。
裁判で問題となったのは、ケーズデンキのテレビCMです(原審:東京地裁平成23年12月14日、控訴審:知財高裁平成24年10月25日)。
事案の概要
問題となったテレビCMの広告主はケーズデンキ、広告代理店は電通です。
当該CMは、電通を独立したA(被告の監査役)が、その制作を統括していました。
著作権を主張する原告は、原告のプロデューサーとして、撮影、編集等について、予算管理、スケジュール管理、スタッフの選択・手配に携わった被告Y1(個人)を通じて制作に関与し、電通から直接、または被告を通じて制作費の支払いを受けていました。
争点
テレビCM原版の著作権の帰属が争点です。
これを論じる過程で、CM原版が映画の著作物かどうか、CM原版の著作者は誰か、についても問題となりました。
裁判所の判断
原審と、控訴審とで、若干、判断の異なる部分があります。
まず、両裁判所とも、テレビCM原版が映画の著作物であることを認めています。
次に、テレビCM原版の著作者について、原審は、「本件ケーズCM原版において、その全制作過程に関与し、CMのコンセプトを定め、出演タレントを決定するとともに、CM全体の予算を策定し、撮影・編集作業の指示を行っていた」のはAであり、Aが映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者(著作権法16条本文)として、CM原版の著作者であると認定しました。
これに対し、知財高裁は、Aを少なくともCM原版の著作者の一人と認定しました。
その上で、CM原版の著作権者について、原審は、「本件ケーズCM原版について、その製作する意思を有する(発意)主体としては、広告代理店である電通か、広告主であるケーズデンキであると考えられる」と判断し、広告代理店がCM原版の著作権者なる可能性があることを示唆しています。
これに対し、知財高裁は、「本件ケーズCM原版について、これを製作する意思を有し、当該原版の製作に関する法律上の権利・義務が帰属する主体となり、かつ、当該製作に関する経済的な収入・支出の主体ともなる者としては、広告主であるケーズデンキであると認めるのが相当である」と判断し、広告主を著作権者と認め、広告代理店をCM原版の著作権者と認めませんでした。
いずれの判断でも、原告は、CM原版の著作権者ではないと判断された結果、原告の請求は棄却され、控訴も棄却されています。
知財高裁は、続けて、映画の著作物の著作権に関する著作権法29条1項の規定が、劇場用映画だけでなく、テレビCMにも適用されるかを論じています。知財高裁は、CM原版も映画の著作物であること、広告映像であっても、広告主のリスク負担や、広告主が著作物の円滑な利用を確保する必要性があることから、29条1項の適用を排除する理由はないと判断しています。
実務上の注意
広告映像のような短い映像であっても、契約によって著作権の帰属を明確にしておく必要があります。
今回は、制作会社vs制作会社の紛争でしたが、制作にあたっては制作会社に著作権を主張されないような権利処理をしておくべきだったといえます。