商標は実際に使わなければならないか?

世の中には、登録されていても、実際には使われていない商標が多数存在します。
使っていない商標はどのように取り扱われるのでしょうか。

登録主義と使用主義

まず、使用していない標章でも商標登録は認められますし、登録された商標を実際に使用していなくても商標権として有効です。商標は、登録さえしていれば商標権として権利が成立するのです。これを登録主義といいます。これに対して、使用を商標権の発生と存続の要件とする考え方もあり、これを使用主義といいますが、我が国では使用主義は採用していません。

不使用取消制度

ただし、商標法は、使用の伴わない登録商標を完全に放置しているわけではありません。
商標法は、請求により、一定期間使用されていない商標を取り消すことができると定めています(商標法50条に定める不使用取消制度)。使われていない商標を放置して誰かに独占させておくことは適切ではないからです。
実務上は、使われていない商標と似た商標をこれから商標登録したいときや、実際に使っていることにより、既存の登録商標が障害となっている場合に利用されます。

不使用取消の手続き

具体的な取消方法は、特許庁に対して、不使用取消審判を申し立てる方法により行います。
不使用取消審判請求は、誰でも申立てることができます。その要件は、次のとおりです。

➀継続して3年以上、日本国内において
➁商標権者、専用使用権者または通常使用権者のいずれもが
➂各指定商品または指定役務について
➃登録商標の使用をしていないこと

不使用取消審判請求の申立てを受けた商標権者側では、上記の要件を満たしていないことを立証する必要があります。
もっとも、使われていない商標に関する請求であれば、そのまま取り消されてしまっても構わないと考え、放置する場合もあります。
使用していなかった場合であっても、使用をしていないことの正当な理由を主張して取消を免れることができますが、正当な理由は厳格に判断されるため、実際には難しいと思われます。

不使用取消手続きにおいて問題となる点

問題となるのは、使用している商標が、登録商標と同一のものではなく、登録商標と似た商標の場合です。
商標法は、登録商標と社会通念上同一と認められる商標を、指定商品または指定役務に使用している場合については、不使用取消を認めません。
したがって、必ずしも、登録されている標章と同一のものを使用しなければならないわけではありません。ただし、不使用取消審判では、この問題が中心的な争点になりがちです。

後日、このような問題が生じることを回避するため、出願する際、実際に使用することを考えて、標章を特定する必要があります。
また、長い間使用しているうちに、もとのデザインから徐々に変化したり、あらたな標章が派生したりしている場合もあります。
登録した商標であっても油断せず、たまには見直してみる必要があります。