欧州司法裁判所2016年11月16日判決(C-301/15)は、今般、書籍電子利用法に基づくフランスの書籍の電子化と集中管理を促進する制度を、情報社会指令違反であると判断しました。
制度の内容は、コラム「フランスにおける書籍集中管理制度をEU指令違反と判断した欧州司法裁判所判決➀」を参照してください。
欧州司法裁判所に提起された先決問題
本件は、二名のフランス人が、本制度を情報社会指令違反であるとして、政令の無効を求めて訴えたことに端を発します。フランスの国務院は、この問題を欧州司法裁判所に付託しました。
欧州司法裁判所に提起された先決問題は、次のとおりです。
「指令2001/29第2条および第5条は、知的財産法典134-1条ないし134-9条によって導入されたような規則を禁じるかどうか。この規則というのは、入手不可能な書籍の著作者または権利者が、当該規則が定める条件において、権利行使に反対しまたは終了することを認めながら、当該書籍の電子的形式による複製または上演演奏の許諾権の行使を承認された著作権集中管理団体に委ねるものである。」(判決24項)
結論
欧州司法裁判所が、先決問題について下した判決は、次のとおり、書籍電子利用法を情報社会指令違反とするものです。
「情報社会指令2条および3条は、入手不可能な書籍-すなわちフランスにおいて2001年1月1日より前に発行された書籍で、印刷またはデジタル形式で商業的頒布も刊行も行われていない書籍-の電子的形式での複製および公衆伝達の許諾権の行使を著作権集中管理団体に委ねる国内規則で、当該書籍の著作者または著作権者にこの規則が定める条件に従ってその行使を禁止しまたは終了することを可能とするものを、禁止する方向で解釈されなければならない。」(判決53項)
このように、欧州司法裁判所は、書籍電子利用法に基づく制度について、情報指令違反であると判断しました。では、どのような理由で、当該判断に至ったのでしょうか。
情報社会指令違反と判断した理由
まず、欧州司法裁判所は、著作権者には著作物の利用を許諾しまたは禁止する排他的権利があり、例外に該当する場合は別として、著作権者の事前の同意なく、著作物を利用する行為は、著作権侵害になるとの前提を明確にしています。
その上で、裁判所は、利用に対する著作権者の同意は黙示に表明されてもいいのですが、この同意を認めるためには、著作権者に対し、第三者による著作物の将来的利用と著作権者が望む場合には利用を禁止する方法を効果的に知らせる必要があると判断しました。
この点、書籍電子利用法によれば、著作権者には、データベース登録から6ヶ月の期間内の異議申立てが認められてはいますが、異議がなければ利用に対して黙示に同意したものと認められてしまいます。そのため、著作権者の中には、将来的に利用されることになることを知らず、立場を表明できない者もでてきます、裁判所は、そのような単なる異議の不存在では、利用に対する黙示の同意の表明とみなすことはできないと判断しました。
加えて、本制度によれは、著作権者は、印刷形式での著作物の出版者との共同の合意によるか、当該著作物に対する唯一の権利者であるとの証拠を示して、電子的形式による利用を止めることができます。裁判所は、この点に関して、印刷形式の著作物の利用権しか有しない出版者の同意にかからせるという意味で、著作権者以外の者の意思次第となり、独占権としての性質に相反することになると判断しました。また、これは、著作権者の複製権および公衆伝達権が、いかなる形式に拘束されることなく享受されるものであることとも相容れないとされました。
判決の影響
問題の制度は、情報社会指令違反と判断されたとはいえ、フランスでは既に稼働している制度ですので、今後、軌道修正をして継続するのか、廃止されることになるのか気になるところです。
また、書籍電子利用法が情報社会指令違反であるとしたら、拡大集中許諾制度はどうなるのかという疑問もあります。これは、孤児著作物の著作者をちゃんと探索していれば問題ないようにも思えます。
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