フランスは、2012年3月2日、20世紀の入手不可能な書籍の電子的利用に関する2012年3月1日法2012-287号(以下「書籍電子利用法」)という法律で、書籍の電子化を促進し公衆に提供するための画期的な制度を導入しました。
ところが、欧州司法裁判所2016年11月16日判決(C-301/15)は、今般、この制度を情報社会指令違反であると判断しました。
どのような理由により、違反とされたのでしょうか。その説明の前に、まず、書籍電子利用法がどのような制度なのかを説明します。
書籍電子利用法について
書籍電子利用法は、未だ著作権保護期間が経過していないものの、商業的に利用されず、図書館以外において公衆がアクセスすることが難しい状態となっている書籍について、電子化と配信を促進し公衆に文化財を広く提供することを目的としています。
・・・というのは建前としての説明で、本音は、GOOGLE BOOKSへの対抗措置です。民間の一企業が公共財を奪おうとしている行為に対して、フランスは、国として立ち上がったわけです。
その具体策として、フランスは、書籍電子利用法で、入手不可能な書籍のデータベースを整備し、当該書籍を電子化したうえで、配信に関する利用許諾を集中管理する制度を導入したのです。
ここで、入手不可能な書籍とは、2001年1月1日前にフランスにおいて発行された書籍で、もはや出版者による商業的頒布の対象となっておらず、かつ、現に、印刷またはデジタル形式における発行の対象になっていないもの、と定義されています。
入手不可能な書籍がデータベースに登録され、異議のないまま6ヶ月経つと、著作権集中管理団体がデジタル形式での複製と提供を許諾する権利を行使することになります。著作者または書籍の印刷形式における複製権を有する出版者は、データベースへの登録や集中管理団体による許諾に対し、異議を述べることができます。
実際の運用
この制度は、2013年から、すでに運用が開始されています。フランス国立図書館は、「ReLire」と称するデータベースを稼働させ、対象となる書籍をデータベースに登録しています。
データベース登録後は、まず、著作権者や出版者からの異議申立を待ちます。
異議がなかった書籍については、著作権集中管理団体であるSOFIAが、その書籍を紙媒体で出版した出版者に対し、電子書籍形式での利用許諾を提案します。当該出版者が、提案を拒絶したり回答をしなかった場合には、一般の利用者への利用許諾を行うことになります。
書籍電子利用法の問題点
これは、死蔵の状態となっている書籍の電子化を促進し、それを公衆に提供していくための大胆な政策ですが、理論的には問題がありました。
まず、著作権者から許諾権や禁止権をはく奪し、報酬請求権化してしまうことになるという問題です。
次に、書籍を電子化して出版する権利を有しない出版者が、データベースへの登録に異議を述べることができたり、集中管理団体による利用許諾に対して報酬を受領することができるという問題です。
では、欧州司法裁判所は、どのような理由により情報社会指令違反と判断したのでしょうか。
フランスにおける書籍集中管理制度をEU指令違反と判断した欧州司法裁判所判決➁へ
なお、書籍電子利用法の詳細は、コピライト2012年9月号「フランスにおける電子書籍の配信と集中管理」をお読み下さい。
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