広義の著作権には、著作財産権と著作者人格権があります。著作財産権は、著作者が死亡した後、一定期間存続します(コラム「著作権の保護期間はどの位?」参照)。それでは著作者人格権は、著作者が死亡した後も存続するのでしょうか。
著作者人格権は一身専属的権利
民法上、人格権は、一身専属的権利とされます。 つまり、人格権はその人にしか帰属しないので、譲渡したり、相続したりすることはできません。
同じように、著作者人格権(公表権、氏名表示権、同一性保持権)も一身専属的権利です。著作権法59条は、「著作者人格権は、その性質上著作者の一身に専属し、譲渡することができない。」と規定しています。そうすると、著作者の死亡とともに著作者人格権は消滅し、著作者人格権は譲渡や相続の対象とはなりません。
しかし、それでは著作者の死後、著作者人格権は保護されないことになります。
そのような結果は不都合なので、著作権法では、著作者の死後も著作者の人格的利益を保護することを規定しています。
著作者の死後の人格的利益の保護
著作権法60条は、次のように定めています。
「著作物を公衆に提供し、又は提示する者は、その著作物の著作者が存しなくなった後においても、著作者が存しているとしたならばその著作者人格権の侵害となるべき行為をしてはならない。ただし、その行為の性質及び程度、社会的事情の変動その他によりその行為が当該著作者の意を害しないと認められる場合は、この限りでない。」
実演家については、101条の3に同様の規定があります。
なお、条文には、「その著作物の著作者が存しなくなった後」とあり、「著作者の死後」に限られるわけではありません。
したがって、法人も射程範囲です。ただし、法人がなくなった後には、人格権を行使する者も結局いなくなってしまうので、実際に人格的利益を主張されることはなさそうです。
また、「著作者人格権の侵害となるべき行為」には、みなし侵害となる著作者の名誉または声望を害する方法によりその著作物を利用する行為(113条6項)も含まれます。
著作者の死後の人格的利益はどのように守られるか
では、著作者の死亡などによって著作者が存しなくなった後、誰がどのように居なくなった者の人格的利益を行使すればよいのでしょうか。
著作者が存しなくなった後の人格的利益を守るため、著作権法は、差止請求権(第112条)、名誉回復等の措置請求(115条)を認めています(116条)。なお、東京高裁平成12年5月23日判決(剣と寒紅事件)が認めた損害賠償請求は、複製権侵害に基づく請求であって、人格的利益の侵害となるべき行為(60条)をしたことを理由として認められたわけではありません。
著作者が死亡した人の場合には、人格的利益を行使する権限のある者は、原則として遺族です。
死亡した著作者が、遺言で順位を指定していたときは、その順位によることになります(116条2項)。
また、遺族以外の者を遺言で指定することもできます(同条3項)。
指定がない場合は、配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹の順となります(同条1項)。
ところで、著作者の死後に人格的利益が保護されるといっても、116条に定める請求がいつまでできるかという問題に関しては明確ではありません。永久に保護されるとも考えられますが、あまりに時が経ってしまえば、社会的事情の変動でもはや著作者の意を害しないと認められる場合(60条)に該当しそうです。
なお、著作財産権の方は、死後50年間保護されます。
マイケル・ジャクソンのように、死後であっても相当な年収を稼ぐ場合があります。
クリエーターの方やその遺族の方は、著作者が死亡したら終わりになると考えるのではなく、著作権をしっかり管理をする必要があります。
この分野に関する裁判例として、東京地裁平成15年6月11日決定(ノグチ・ルーム事件)、東京高裁平成12年5月23日判決(剣と寒紅事件)があります。
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