平成28年8月10日(水)付け日経新聞朝刊の記事によれば、公正取引委員会が、電子書籍に関するamazonの最恵国待遇(MFL)条項を問題視し、立ち入り調査に入ったと報じられました。最恵国待遇条項は、英語では、Most-Favoured-Nation clauseと称されるので、略してMFL条項と言われます。
これに関しては、「え~っ、今ごろ・・・」としか言いようがありません。
出版業界は、前々から最恵国待遇条項を問題視してきました。
しかし、公正取引委員会は、これまで様子見でした。
最恵国待遇条項とは
公正取引委員会が問題視している最恵国待遇条項とは、どのような条項でしょうか。
電子書籍配信契約における最恵国待遇条項は、出版者が、プラットフォームに提供した電子書籍について、他のプラットフォームと同じかより有利な条件で提供することを約する条項です。
この条項により、本件では、出版社がamazonに提供したコンテンツと同じコンテンツを他のプラットフォームに提供する場合、amazonには少なくとも当該プラットフォームと同じ価格や条件で提供しなければならないことになります。
独禁法の規定
今回の公正取引委員会による立ち入り調査は、amazonの最恵国待遇条項が、独禁法上、不公正な取引方法の一つに掲げられている拘束条件付き取引(2条9項6号、一般指定12項)に該当するのではないかという疑いによるものです。
拘束条件付き取引とは、「相手方とその取引の相手方との取引その他相手方の事業活動を不当に拘束する条件をつけて、当該相手方と取引すること」です(一般指定12項)。
最恵国待遇条項の問題点
最恵国待遇条項の場合、amazonは、出版社に「相手方とどういう取引をするのも勝手だけど、自分をそれより不利に扱わないでね」と言っているだけで、「別の取引相手と契約する場合にはこういう条件でやってね」と言っているわけではないので、拘束条件付き取引といわれても、あまりしっくりこない感じがします。また、
最恵国待遇条項による最安値保証は、消費者価格を下げることに繋がるため、競争的であるとも考えられています。
しかし、あるプラットフォームが他のプラットフォームとの競争価格まで常に電子書籍の小売価格を下げることができる可能性があるとすれば、当該プラットフォームは他のプラットフォームとの価格競争において絶対不利にはなりません。
最恵国待遇条項は、出版社と他のプラットフォームの取引を直接的に排除したり制限したりするわけではありませんが、市場全体をみると、自らは常に競争価格での商品・サービス提供が確保され、優位な立場に立つことができ、ひいては、競業他社を市場から締め出すことができるという意味において、自由競争が減殺され、競争阻害性があるといえるのではないでしょうか。
本件では、最恵国待遇条項が、実質的に、「別の取引相手と契約する場合にはこういう条件でやってね」と言っているに等しいかどうか、つまり取引条件を拘束していると評価できるかどうかが問題になると思います。