商品には、そのメーカーの商品ならではの色彩・配色が用いられている場合があります。
そのような色彩・配色は、知的財産権によって保護されるのでしょうか。
不正競争防止法2条1項1号は「他人の商品等表示として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し・・・他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為」(周知表示誤認混同行為)を不正競争として禁止しています。
「他人の商品等表示」とは、「人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの」です(同条かっこ書き)。
商品における色彩・配色が周知表示誤認混同行為における商品表示に該当するかどうかについて争われた裁判例として、トロピカルライン事件があります(大阪地裁昭和58年12月23日判決)。
事案の概要
原告は、主にウェットスーツを製造販売する会社で、昭和53年5月、3色ずつ組み合わせたラインを使用した4種類のカラースーツ(AないしDラインの4種類。
これらのラインを合わせて「本件ライン」といいます)を発表し、販売しました。
原告は、本件ラインを「トロピカルライン」と名づけています。それまでのウェットスーツの色は、素材のゴム地の色をそのまま使用した黒色が主流でしたから、このようなウェットスーツの誕生は画期的でした。
被告らは、本件ラインと類似したラインを用いたウェットスーツを製造販売していたため、原告は、原告のウェットスーツとの誤認混同を生じさせるとして、不正競争防止法違反を理由に被告らにウェットスーツの製造販売の差止めなどを求め、訴えを提起しました。
この裁判例の主な争点は、本件ラインの商品表示性です。
つまり、本件ラインを使用した原告製品が、原告商品であることの出所表示機能を有しているか否かという問題です。
裁判所の判断
裁判所は、この点について、以下のとおり判示し、配色も商品表示となり得ることを認めました。
「色彩は、本来何人も自由に選択して使用することが許されるものであるが、特定の単色の色彩又は複数の色彩の特定の配色の使用が当該商品には従来見られなかった新規なものであるときには、特定人が右特定の色彩、配色を当該商品に反復継続して使用することにより需要者をして右特定の色彩・配色の施された商品がこれを使用した右特定人のものである旨の連想を抱かせるようになることは否定できないところであり、このように商品と特定の色彩・配色との組み合わせが特定人の商品であることを識別させるに至った場合には、右商品と色彩・色彩の配色との組み合わせも又、商品の形態と同様、不正競争防止法1条1項1号にいう『他人の商品たることを示す表示』たり得る」(なお、1条1項1号は、現行法2条1項1項)。
さらに、本件ラインの周知性も肯定しました。
そのうえで、被告らのウェットスーツについては、原告が主張した4つのラインのうちAライン・Bラインとの類似性を認定し、誤認混同にあたるとして、原告の請求を一部認めました。
本件は、色彩・配色の施された商品について、商品表示性ありと判断し、周知表示誤認混同行為該当性を認めた最初のケースです。判決のいうとおり、原則として、「色彩は、本来何人も自由に選択して使用することが許されるもの」ですが、商品展開をする事業者としては、商品表示性が認められる場合があることを認識すべきです。
自己の商品の色彩・配色に自他商品識別力があると考えられる場合には、平成26年商標法改正によって新設された色彩のみからなる商標や位置商標の出願も検討すべきです。