今やオンラインでゲームを楽しめる時代ですが、媒体で流通するゲームソフトもな根強いファンがいます。
媒体が主流の時代には、中古ゲームソフト販売の市場も盛況でした。
ユーザーとしては、品質は劣らないゲームソフトを安価で手に入れることができれば、楽しみが広がります。
他方、ゲームソフトの著作権者としては、中古市場との競合を避けたいところでした。
そこで、家庭用テレビゲーム機用ソフトウェアの著作権者が、消費者から中古のゲームソフトを買い入れ販売していた会社に対し、頒布権(はんぷけん)に基づいて販売差止めを求めて争った事件があります。東京と大阪で別の事件があり、下級審ではそれぞれ結論が分かれていました。
最高裁は、両事件について次のように判断し、結論を統一しました(最高裁平成14年4月25日)。
争点は、次の3点です。
➀本件各ゲームソフトが「映画の著作物」に当たるか
➁著作権者が頒布権を有するか
➂頒布権は消尽するか
ゲームソフトの多くは、映画的影像を含んでいるため、ゲームソフト媒体を「映画の著作物」とすれば、通常、「頒布権」が適用されることになります(著作権法26条1項)。
➀本件ゲームソフトが「映画の著作物」にあたるか
著作権法上の「映画の著作物」は、劇場用映画に限りません。
「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物を含む」と定義されています(著作権法2条3項)。
最高裁で争われた本件各ゲームソフトは、CD-ROMに収録されたプログラムに基づいて抽出された影像についてのデータがディスプレイの画面上の指定された位置に順次表示されることによって全体が動きのある連続的な影像となって実現されるものでした。
最高裁は、原審の認定にしたがって、本件各ゲームソフトは「映画の著作物」にあたるとしました。
ゲームソフトの映像が「著作物」に該当し得ることは、平成13年2月13日の最高裁判例で示されていたところです。
➁ゲームソフトの著作権者が頒布権を有するか
「頒布権」とは、映画の著作物の複製物を公衆に譲渡したり貸与したりすることを内容とする権利です(法26条1項)。
映画の著作物にのみ認められます。
その理由は、劇場用映画の多額の資本投下を効率的に回収する必要性や、劇場用映画のフィルムの貸与を前提とする配給制度の慣行の存在、著作権者の意図しない上映行為を規制するために前段階である頒布行為を規制する必要があったためとされています。
そのため、劇場用映画以外の「映画の著作物」にも頒布権が認められるのか問題となりました。
この点、最高裁は、本件ゲームソフトが「映画の著作物」に該当する以上、著作権者は頒布権を専有するとしました。
頒布権の対象となる複製物について何ら限定していない条文の定め方に整合する判断です。
➂頒布権は消尽するか
映画の頒布権の立法経緯から、劇場用映画の頒布権は消尽しないと解釈されてきました。しかし、本件では、劇場用映画が問題ではありません。
最高裁は、条文上は、「映画の著作物」の頒布権は消尽するか否かについて定めていない以上、解釈問題であるとした上で、「公衆に提示することを目的としない家庭用テレビゲーム機に用いられる映画の著作物の複製物の譲渡については・・・当該著作物の複製物を公衆に譲渡する権利は、いったん適法に譲渡されたことにより、その目的を達したものとして消尽し、もはや著作権の効力は、当該複製物を公衆に再譲渡する行為には及ばない」と判断しました。
その理由として、著作権法による著作権者の権利の保護は社会公共の利益との調和の下で実現されなければならないところ、著作物またはその複製物について譲渡を行う都度、著作権者の許諾を要するということになれば、市場における商品の自由な流通が阻害されること、他方、著作権者は著作物または複製物を譲渡するにあたって譲渡代金を取得し、または使用料を取得でき、その代償を確保する機会は保障されていることを挙げています。つまり、ゲームソフトは、譲渡権と同様、最初の譲渡についてのみ著作権の効力が及ぶことが明らかになりました。
最高裁は、中古ゲームソフトの販売を適法としたため、ゲームメーカーは工夫を凝らす必要に迫られました。
しかし、時代の流れは速く、現在は、ゲームアプリすら無料で配信され、アイテムで課金するという全く異なるビジネスモデルが主流となっています。