知的財産権といっても、抽象的に説明しただけでは分かりにくいので、具体例としてペットボトルを挙げて説明します。
特許権による保護の対象
まず、ペットボトルの構造について、たとえば、潰しやすい構造のペットボトルを思いついた場合、技術的思想の創作として発明や考案となり、特許権や実用新案権の対象となり得ます。
ただし、すでに公然に知られているか実施されているものについては、特許権や実用新案権は成立しません。
商標権による保護の対象
例えばペットボトル飲料を売り出す場合、他人のペットボトル飲料と自分の商品とを区別するため、商品の名前を記載します。
商品名を商標として登録すれば、商標権が成立します。コカ・コーラや爽健美茶という商品名は、商標登録がされています。
そのほか、コカ・コーラのボトルの形状も、立体商標として、登録されています。立体商標とは、立体的な形状からなる商標を指します。そのほかの例として、ペコちゃん人形や、ヤクルトの容器の形状なども立体商標として登録されています。
以前は、平面的な商標(平面商標)しか認められていませんでしたが、平成8年改正法により、立体商標の制度が導入されました。
当初、特許庁は、コカ・コーラのボトルの形状は立体商標として認められないと判断したのですが、知財高裁では、その判断を覆し、本来は、商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標に該当するので、商標登録を受けられない商標となるが、コカ・コーラボトルについては、自他商品識別機能を獲得したとして、商標登録を受けることができると判断しました。
意匠権による保護の対象
ペットボトルの形状は、視覚を通じて美観を起こさせる物品の形状として、意匠権の対象にもなり得ます。また、意匠権の対象になるものについては、著作権で応用美術の著作物として認められる可能性もありますが、これは議論の多いところで、ペットボトルの形状については著作権による保護は難しいかもしれません。
不正競争防止法による保護の対象
そのほか、ペットボトルのデザインは、不正競争防止法で保護される可能性があります。
不正競争防止法は、競業関係において公正な競争が展開されるよう民事上・刑事上の制裁をもって禁止される行為を定めています。たとえば、誰かがコカ・コーラのボトルのデザインをまねた場合を想定してみましょう。
コカ・コーラのボトルの形状は、商標登録されていなかったとしても、コカ・コーラ社のものとして一般的に周知であると考えられます。
そのような形状は周知の商品表示と認められると考えられます。第三者がそのようなボトルのデザインをまねて清涼飲料として売り出した場合、一般の消費者はそのボトルの形をしたものはコカ・コーラ社の商品でないかと思い混乱します。
このように不正競争防止法2条1項1号は周知表示を誤認混同させる行為を禁止しています。
知的財産権の特徴と留意点
普通は、一つの物については、一個の所有権しか成立しないとされます。
これを一物一権主義(いちぶついっけんしゅぎ)といいます。
たとえば、ある人が単独で家を所有しているとすると、その家を他人が所有することはあり得ません。
これに対して、知的財産権の場合は、一つの物に対して、複数の知的所有権が成立します。
そのため、ある商品を開発したり、売り出したりする場合には、他人の特許権に抵触していないか、実用新案権はどうか、そのネーミングは他人が既に商標登録してはいないか、そのデザインは他人の意匠権に抵触していないか、等に注意する必要があります。