短い文章や言葉でも著作物として保護されるか①に続いて、ニュースなどの記事の見出しや標語・スローガンを取り上げます。
<記事の見出し>
裁判所は、「ニュース報道における記事見出しであるからといって,直ちにすべてが著作権法10条2項に該当して著作物性が否定されるものと即断すべきものではなく,その表現いかんでは,創作性を肯定し得る余地もないではないのであって,結局は,各記事見出しの表現を個別具体的に検討して,創作的表現であるといえるか否かを判断すべきものである」と判断し、ニュース記事の見出しのような比較的短い文章についても、創作性を肯定しうる余地があることを明らかにしています(知財高判平成17年10月6日、原審東京地判平成16年3月24日判時1857号108頁YOL事件)。
その上で、「一般に,ニュース報道における記事見出しは,報道対象となる出来事等の内容を簡潔な表現で正確に読者に伝えるという性質から導かれる制約があるほか,使用し得る字数にもおのずと限界があることなどにも起因して,表現の選択の幅は広いとはいい難く,創作性を発揮する余地が比較的少ないことは否定し難いところであり,著作物性が肯定されることは必ずしも容易ではないものと考えられる」と判断して、読売オンラインのニュース記事の見出しの著作物性を否定しました。
本件で問題となった記事見出しとして、たとえば、「マナー知らず大学教授、マナー本海賊版作り販売」、「A・Bさん、赤倉温泉でアツアツの足湯体験」といったものがあります。
一概にはいえませんが、これら記事見出しの著作物性が否定されるとなると、見出しの著作物性が肯定されるにはハードルが高そうです。
<標語・スローガン>
他方、同じように短い文章であっても、創作性が肯定される場合があります。
「ボク安心ママの膝よりチャイルドシート」という交通標語(スローガン)の著作物性が問題となった事件において、裁判所(東京地判平成13年5月30判時1752-141交通標語事件)は、上記交通標語について、「三句構成からなる五・七・五調(正確な字数は六字、七字、八字)調を用いて、リズミカルに表現されていること、「ボク安心」という語が冒頭に配置され、幼児の視点から見て安心できるとの印象、雰囲気が表現されていること、「ボク」や「ママ」という語が、対句的に用いられ、家庭的なほのぼのとした車内の情景が効果的かつ的確に描かれているといえることなどの点に照らすならば、筆者の個性が十分に発揮されたものということができる」と判断し、著作物性を肯定しました。
同じ短い文章であっても、このように著作物性が否定される場合と肯定される場合があります。
前者は、ニュース記事の見出しであるため、客観的事実をどのように言い表すかという問題になり、そういう意味では、表現の幅は事実に制約され狭くなります。他方、スローガンや標語では、主題(テーマ)はあるものの、それをどのように言い表すかという点に関しては、表現の幅はより広いと考えられます。
ただし、後者の「交通標語事件」では、被告のスローガンである「ママの胸よりチャイルドシート」が原告の交通標語の侵害になるか否かについて、「両スローガンは、「ママの」「より」「チャイルドシート」の語が共通する。上記共通点については、両スローガンとも、チャイルドシート着用普及というテーマで制作されたものであるから、「チャイルドシート」という語が用いられることはごく普通であること、また車内で母親が幼児を抱くことに比べてチャイルドシートを着用することが安全であることを伝える趣旨からは、「ママの より」という語が用いられることもごく普通ということができ、原告スローガンの創作性のある点が共通すると解することはできない」と判断し、侵害を否定しています。
つまり、被告のスローガンは、一見、原告のスローガンと似ているように見えますが、原告の創作的表現を複製したものではないため、著作権侵害については否定されるのです。
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